1. 柴崎由美子さんの話題提供:みんなでミュージアムの5年間と2つの気づき
NPO法人エイブル・アート・ジャパン代表の柴崎由美子さんが最初に登壇し、みんなでミュージアムの5年間の歩みと今後の展望について述べました。
柴崎さんは、文化庁委託事業として5年間取り組んできたみんなでミュージアムの活動を振り返り、最大の成果として「障害のある人たち自身と共に実践・研修してきたこと」を挙げました。利用者としてだけでなく、コーディネーターとして参画する障害当事者が増えていることが大きな変化だといいます。
今年度の2つの気づき
1つ目は、ミュージアム関係者からの、アクセス改善や鑑賞サポートに関する相談が増えていること。静岡県立美術館からは監視・受付スタッフ向けのアクセシビリティ研修の依頼があり、視覚障害のある当事者コーディネーターと共に館内を巡りました。また、埼玉県博物館連絡協議会からは県南部ミュージアム職員向け研修の相談があり、聴覚障害のあるコーディネーターが手話通訳や音声認識ディスプレイを使ったデモンストレーションを行いました。
こうした経験から、ミュージアムのことをより深く知るための連携が必要だと感じるようになったと柴崎さんは語り、このあと登壇する鈴木智香子さんの国立アートリサーチセンター(NCAR)の紹介へと話をつなげました。
2つ目は、ミュージアム体験を豊かにするためには、障害のある人との実践研修がとても有効ということでした。障害当事者と共にミュージアムを体験する研修の実践が、関わる人の意識を変えていく——そうした実感が語られました。
こうした実践の場を全国に広げる上で鍵になるのが、各都道府県に設置されている障害者芸術文化活動支援センターとの連携だと柴崎さんは述べ、このあと登壇する大政愛さん(福島)、樋口龍二さん(九州)の取り組みを紹介しました。
柴崎さんは、みんなでミュージアムの活動において「地域性」「自走化」「繋がり」の3つが重要だと述べました。地域の状況に合わせた体制づくり、各ミュージアムが自走しやすい環境、そして地域を超えた交流の機会をつくること。そのために各地域に人とミュージアムをつなぐ中間支援団体が必要であり、今日のシンポジウムの3つの事例を通じてその学びを深めたいと話し、問題提起を締めくくりました。
2. 鈴木智香子さんのレクチャー:繋がりと対話を育む社会へ - NCAR × みんミの連携事例
続いて、独立行政法人国立美術館・国立アートリサーチセンター(NCAR)研究員の鈴木智香子さんが登壇し、NCARの取り組みについて報告しました。
国立アートリサーチセンター(NCAR)は2023年に発足した、国立美術館(全国7箇所)の8番目の組織で、「アートをつなげる、深める、広げる」をミッションに掲げ、美術館と社会をつなぐ役割を持った組織です。
鈴木さんは、2018年の文化芸術基本法にある「国民がその年齢、障害の有無、経済的な状況、または居住する地域に関わらず等しく文化芸術を鑑賞し、参加し、創造することができる」という理念を踏まえ、エイブル・アート・ジャパンとも連携した事業として以下の3つを紹介しました。
- ハンドブック「ミュージアムのケースから知る・学ぶ 合理的配慮」(2024年3月公開)——障害者差別解消法改正による合理的配慮の完全義務化を受けて制作。NCARのウェブサイトでPDFと音声読み上げテキストが公開されています。
- シンポジウム「美術館のアクセシビリティ——共生社会に向けた合理的配慮とは」 の開催。
- 動画シリーズ「ふかふかTV——ミュージアムアクセシビリティ講座」——合理的配慮と情報保障をテーマにした動画で、「初めての場所へ行くのが苦手な人」のミュージアムアクセスの課題なども取り上げています。
そして4つ目が、今年度のメイン事業である「ミュージアム運営のためのアクセシビリティ研修」です。この研修で目指したのは、ミュージアムに関わるすべての人が、アクセシビリティを自分ごとにすること。博物館法改正で専門職だけでなくあらゆる人が学ぶ必要が生まれたことも背景にあったそうです。
研修はEラーニングと対面ワークショップの2段階構成。Eラーニングには全国約50箇所、20都道府県から、館長から受付スタッフ、市民団体まで幅広い参加がありました。対面ワークショップは三重県総合博物館、水戸芸術館、国立西洋美術館など10箇所で開催され、「実装」をキーワードに議論が行われました。
ワークショップでは「出会い(DEAI=Diversity, Equity, Accessibility, Inclusion)リサーチラボ」と名付けたプログラムが実施されました。注目すべきは、独自に開発された「ミュージアムアクセシビリティマップ」というツールです。9種類の人物像——たとえば「騒がしいところが苦手なHさん」——がミュージアムにアクセスする過程を曲がりくねった道として表し、その道すがらに感じる心理的なモヤモヤ(困りごと)を可視化します。
参加者はこのマップをもとに、すぐ実現できること・時間や予算が必要なこと・もっと聞いてみないと分からないこと(ミュージアム側のモヤモヤ)に分けて付箋でアイデアを書き出します。物理的な対応だけでなく、来館前の不安や心理的障壁を可視化することが重要だと鈴木さんは強調しました。各地域では障害当事者をゲストに招き、個人的なケースや体験を共有してもらう試みも行われました。研修終了後も地域内の繋がりが継続するよう、地元のNPOや障害者芸術文化活動支援センターとの連携も意識されています。
鈴木さんは最後に、つながりをつくる中間支援に必要な3つの力として「点をつなぎ面にしていく力」「地域のネットワークを育む力」「対話のある共創社会を築く力」を挙げました。
3. 大政愛さんの事例報告:はじまりの美術館——小さな美術館の伴走
はじまりの美術館(福島県猪苗代町)の学芸員・大政愛さんが登壇しました。はじまりの美術館はミュージアムであると同時に、福島県障害者芸術文化活動支援センターでもあります。その両方の立場からの事例報告がありました。
はじまりの美術館は2014年に開館した、約140年前の酒蔵をリノベーションした小さな美術館です。社会福祉法人安積愛育園が運営し、「人の表現が持つ力や人の繋がりから生まれる豊かさ」を理念に掲げています。
展示室は靴を脱いで入るスタイルで、赤ちゃんがハイハイしながら鑑賞することもあるそうです。これまでに、年5回ペースで企画展を実施。過去200組を超える作家を紹介しています。企画テーマにあわせて、障害のある作家と現代アートの作家を並列に展示する姿勢も特徴的です。
大政さんは「美術館での出来事」「アクセシビリティ研修での出来事」「オープンミーティングでの出来事」の3つに分けて事例を紹介しました。
美術館での出来事——地域の「居場所」としての日常
建物は北側2/3が展示室、南側1/3がカフェスペース(無料エリア)という構成です。カフェスペースでは地域住民と来館者が自然に出会い、交流する風景が日常的に生まれています。「寄り合い」と名付けたプロジェクトでは、地域の人たちとおすすめスポットマップを作ったり、毎年の焼き芋を楽しんだりしています。
特別な用事がなくても訪れる人がいて、アーティスト、地域の方、障害のある方、さまざまな人がそこにいる空間が自然に生まれるといいます。少人数のスタッフが常に受付やカフェにいるからこそ、「この人とこの人が出会ったら面白いかも」と人と人をつなぐ役割を日常的に担っているとのことです。
アクセシビリティ研修会——3年間の歩み
2つ目は、福島県博物館連絡協議会との研修会です。きっかけは、県内ミュージアムの学芸員からの「アクセシビリティに関する研修を企画実施したい」という相談でした。大政さんは、この取り組みにはみんなでミュージアムが入ったほうがもっと面白くなるのではないかと事務局に相談し、連携が始まりました。
1年目(2022年)は県内11館14名が参加。視覚障害のある鈴木優香さんや聴覚障害のある根本典子さんをゲストに迎え、個人的に困ったエピソードや嬉しかったエピソードを聞くところから始めました。後半は各館の課題を共有し、予算などの制約を考えずにアイデアを出し合うグループワークへと展開しました。
2年目は37名に拡大し、諸橋近代美術館がパネル設置など第一歩を始めたという報告も。3年目(2024年)は「情報発信」をテーマに、盲導犬を連れた鈴木さんと展示室を巡りながら、Instagramでの情報収集や画像のalt機能といった具体的な課題を議論しました。
研修は年1回の頻度ですが、「できるところからやってみよう」を大切にした緩やかなネットワークになっています。研修後には、参加者が自館でワークショップを企画したり、研修でつながった他館を訪問したりと、大きな動きも小さな動きも生まれているとのことです。
オープンミーティング——外に出かけていく支援センター
3つ目は、「出張!はじまりの美術館 福祉とアートのオープンミーティング2026」(須賀川市民交流センター)です。はじまりの美術館が支援センターをやっていることを知らない人、美術館は知っているけど行ったことがない人——そうした人たちとの接点をつくるため、美術館の外に出かけていくイベントでした。
1日限りの開催でしたが、福祉事業所の実践報告とグループワーク、アーティストの公開制作、福祉とアートの手仕事市など、同時多発的にさまざまな動きが生まれました。「相談窓口があると知って初めて来た」という人や、「この人に会ってみたかった」という人同士が出会う場となりました。
大政さんは最後に、はじまりの美術館を「地域の居場所」として捉えていると語りました。自分ごととして様々なことに出会える場であり、誰かの日常につながっている場であり、様々な人が出会うことができる場。
そして中間支援というテーマについては、「私たちも分からないけど、一緒に悩みながら走っています」と語りました。「支援します」ではなく「一緒にやりましょう」——それが、はじまりの美術館が大切にしている姿勢だといいます。
4. 樋口龍二さんの事例報告:九州から広がるアクセシビリティの取り組み
九州障害者アートサポートセンター長で、FACT(福岡県障がい者文化芸術活動支援センター)代表理事、NPO法人まる代表理事の樋口龍二さんが登壇しました。
樋口さんは1997年、無認可作業所の施設職員として障害のある人と表現・創作活動に関わり始めました。以来、NPO法人化、企業との共同事業、エイブル・アート・ジャパンと共にアート作品を仕事にするプロジェクトなど、活動を広げてきた経歴を持ちます。2018年に九州の広域センター、2020年に福岡県の支援センターを担うようになり、九州各地で「文化と福祉のマッチング」を行っています。
その根底にある思想として、樋口さんは「障害は間(あいだ)にある」という考えを示しました。障害のある人を社会に適応させるのではなく、その存在を社会に伝え、社会側が学び、選択肢を増やしていくことが自分たちの役割だといいます。
調査から見えた現状——欲求はあるのに選択肢がない
九州障害者アートサポートセンターでは、文化施設の実態調査も行ってきました。2019年の九州の文化施設へのアンケートでは、高齢者への対応は充実している一方、視覚・聴覚・精神・発達障害への対応については知識不足が浮き彫りになりました。2021年の福岡県内の文化施設へのアンケートでは「(障害のある方が)来られたことがないので分からない」という回答もあったそうです。
一方、ニッセイ基礎研究所が2020年に実施した全国調査では、障害当事者自身が「文化芸術活動は必要だ」と高い割合で回答しています。欲求はあるのにアクセシビリティが整っていない——樋口さんはこれを「障害は間にある」という自身の考えとまさに一致していると語りました。
「障害は欲求が生まれて初めて生まれる」——行きたい、見たい、聞きたいという欲求に対して自分1人ではできないとき、選べるものが少ないとき、環境がそれを「障害」にしてしまう。だからこそ環境を変え、そこにいる人たちの対応力を高めることが解決の方法だという考えです。
ラウンドミーティングからネットワークへ
こうした課題に対して、まず始めたのが「福祉と芸術をつなぐラウンドミーティング」でした。九州各県の支援センター、ホールや美術館などの文化施設関係者を集め、課題を共有する場です。座学だけでなく「みんなで踊りましょう」と踊ったりもするそうで、2021年度からは毎年開催。年間3回ほどの学びの場に加え、障害のある方に向けたコンサートの共同運営や、「聞きにくいことも聞いちゃえ」というマッチング相談会もリモートで定期的に開催されています。
現場体験ワークショップ——「鑑賞に来た友達」として施設を巡る
そしてメインの事例として紹介されたのが、現場体験ワークショップです。障害当事者と一緒に「鑑賞に来た友達」という設定で文化施設を巡るプログラムです。
車椅子、発達障害、視覚障害、聴覚障害などのグループに分かれ、受付から駐車場、エレベーター、トイレ、客席まで具体的なチェックポイントを1時間半ほどかけて巡ります。大切にしているのは、障害のある方からレクチャーを受けるのではなく、参加者自身が気づき、当事者に直接質問してノウハウを学ぶスタイルです。
たとえば、聴覚障害のある人とエレベーターに乗って「もし止まったら電話ボタンを押しても何もできない」という気づきや、車椅子利用者が警備員の呼び出しボタンの存在を知らなかったことなど、実際に巡ってみなければ分からない発見がありました。
後半は共有ワークとして、体験で気づいたことをチームごとにまとめ、「これからどうしていくか」を考えます。大改造ではなく、コミュニケーションやちょっとした工夫で対応できることに目を向ける——「気づきシート」と「これからシート」を使った実践的な議論が行われました。
このワークショップは福岡県外にも広がりを見せており、長崎県美術館や熊本県立美術館でも実施されました。参加者同士がLINEを交換し、ワークショップ後に独自の鑑賞会を企画する動きも生まれています。
マッチングからの発展——各地に広がるイベントと自走化
こうしたマッチングの先に、発展的な動きも出てきています。文化施設やホールが、独自に障害のある人に向けたアート展やコンサートを企画するようになり、樋口さんたちは発信の仕方や会場準備のアドバイスという形でサポートしています。一般の方が障害のある人の表現と出会う機会が各地で少しずつ広がっているといいます。
樋口さんは、つながりの延長で、各地で独自に展開していく未来を目指していると語りました。各地の障害のある人たちが近隣の文化施設にアクセスしやすくなり、そうした人たち向けのイベントが定期的に開催される——そんな未来を少しずつつくっていきたいとのことです。
5. クロストーク:「これからの時代に必要な、中間支援とは。」
シンポジウム後半では、柴崎さん、鈴木さん、大政さん、樋口さんの全員が登壇し、参加者のコメントや質問を交えながらクロストークが行われました。
地域格差とネットワーク——まだ届いていない場所へ
参加者からのコメントが紹介されました。研修で盲者の方が講師として来てくれた際に「僕たちは美術館を楽しめない、触れないから」と言われてびっくりした、そして「情報が届かない」とも言っていた——どのように情報を届けているのか、という問いかけです。
柴崎さんはこの問いを受けて、障害者芸術文化活動支援センターは全国47都道府県にあるものの、それぞれに得意不得意があると指摘しました。創造活動や発表活動を得意とするセンターがある一方、国の調査では鑑賞や参加体験の実現事例がまだまだ少ない。だからこそ文化施設やミュージアムとの連携が必要であり、市民による活動が全国に生まれることで、実践が膨らんでいくだろうと語りました。
「どうやったらまだ動いていない地域やミュージアムが動いていくのか」——柴崎さんからこの問いを振られた鈴木さんは、NCARの研修はむしろ福島や九州の先行事例がベースであり、NCARが先にあったわけではないと補足しました。今日話していた内容のコンセプトはすでに実践があり、それを共有しながら全国に広めようとしているのが現在地。ただ、まだ情報が届いていない地域が多く、各県の博物館連絡協議会などの既存ネットワークを通じた拡大が鍵になるとのことです。
樋口さんは、九州でも「バリアフリー調査で指摘されるのでは」と誤解されることがあると明かしました。担当者は理解しても上層部が動かない。障害のある人のアクセシビリティというだけで、まだびびってしまうところがある——そこをうまく翻訳していかないと事業は進まないと語りました。ただ、実際に体験してもらえば趣旨を理解してもらえる。鈴木さんも、管理職から清掃スタッフ、ボランティアまで、ミュージアムに関わるあらゆる人が一緒に加わることを大切にしていると述べました。
「クール」と人権——アクセシビリティをどう位置づけるか
進行の松島さんから「仕組みとして、繋がりを広げるために大切にしていることは」と問いかけられた場面で、樋口さんはこう切り出しました。「こういう取り組みはクールな取り組みだと思っている。理解できないことはダサい。あえてとんがって言うと」。
文化施設も稼がなければいけない。障害のある人には無料で提供しなくてもいい。ボランティアの延長として捉えるのではなく、文化施設のビジネスにとっても有益な事業として成立させること。実際に障害のある人に向けたコンサートで興行収入を上げている実績もあり、「そういう事実を一つ、早く作りたかった」と樋口さんは語りました。事例ができると、みんな取り組み始める、といいます。
これに対して柴崎さんは、「クールは大事な一方で」と切り出しました。子どもを産まなくていいと言われた歴史、学校に来なくていいと言われた法律があったことを忘れてはいけない。参加する、体験する、知る、楽しむ——そのスタートに立つこと自体の環境がまだ整っていない現実がある。クールさと、人として当たり前にある平等な権利の両方が必要だという思いです。
樋口さんは「そういう優しさと丁寧さを踏まえたクール」と応じました——中間支援のあり方をめぐる率直な対話が印象的でした。
会場からの声——ミュージアムとの関わり方を広げる
会場からは、統合失調症の当事者であるピアサポーターの天水さんから発言がありました。いろんなことが頭に浮かんで企画を思いつくものの整理が難しいとき、はじまりの美術館を訪れ、大政さんとお茶を飲んで企画の話をして、頭を整理すると語りました。
鈴木さんは、美術館が展示を見る場所だけでなく、思考を整理する場所、お茶を飲みに行く居場所になっているという関係性の広がりに触れました。現在の研修では、利用者としてどんな障壁があるかという視点が中心だが、これからはお茶を飲みに立ち寄る、相談しに行く、一緒に仕事をする、作品を展示してもらうなど、ミュージアムとの関わり方そのものが広がっていくといいと語りました。
大政さんも、はじまりの美術館は、「人生で初めての美術館なんです」という小さな子どもが多いことに触れました。はじまりの美術館で自由にできたことが、他の場所に行ったら怒られた——そんな声を聞いたことがあるそうです。だからこそ、ここだけが特別で安心できる場所ではなく、どこの美術館でも安心できるように。最低限のお約束は伝えつつ、なるべく自由に過ごせる場づくりを意識しているといいます。中間支援についても「分からないけどやっている。自分たちも支援する立場ではなく、美術館をやったり福祉的な支援をやったり、一緒に走りながら、伴走してアドバイスできることがあったり」と、一緒にという姿勢を改めて語りました。
これからの時代に必要な中間支援とは
クロストークの終盤、進行の松島さんが改めて「これからの時代に必要な中間支援とは何か」と各登壇者に問いかけました。
鈴木さんは、排除してきた歴史があるからこそゼロ地点にどう立てるかが課題であり、NCARとしても「答えを伝える」のではなく「一緒に学ぶ・考える」姿勢を大切にしていると語りました。
樋口さんは、施設にいる人たちの存在が社会から見えないことに気づいたのが原体験だと振り返り、アートという魅力的なツールを使って民間で場を作り、新しい未来を一緒に構築していきたいと語りました。
大政さんは、情報の蓄積と発信の重要性を指摘しました。美術館内部の研修やワークショップは外に出にくいものだからこそ、見えづらい仕事をあえて残し、受け取りやすい情報にしていくことが次の活動につながると語りました。
柴崎さんは、みんなでミュージアムが今年度の活動をハンドブックにまとめていることを紹介し、ミュージアム側も市民側も、共に歩む市民として着実に活動を重ねることが中間支援の大切なポイントだと締めくくりました。
まとめ
本シンポジウムでは、NCARの全国研修、はじまりの美術館の地域密着型の伴走、九州における現場体験型ワークショップと、3つの異なるアプローチが報告されました。共通していたのは、制度や設備の整備だけでなく、「人と人の出会い」を起点にしていることです。
物理的なバリアフリーから、来館前の不安や心理的な障壁まで寄り添うこと。清掃スタッフからボランティアまで、ミュージアムに関わるあらゆる人が当事者と出会い、一緒に考えること。そして、その経験を丁寧に記録し、まだ届いていない地域へとつないでいくこと。
クロストークでは、アクセシビリティへの取り組みを「クール」と表現する樋口さんに対して、柴崎さんが人権の視点の大切さを補足し、樋口さんが「優しさと丁寧さを踏まえたクール」と応じる場面がありました。大政さんの「私たちも分からないけど、一緒に悩みながら走っている」という言葉、鈴木さんの「答えを伝えるのではなく、一緒に学ぶ・考える」という姿勢——立場は異なっても、「一緒に」という言葉が繰り返し語られたシンポジウムでした。
5年間の活動を経て、みんなでミュージアムが見据える先には、各地域に人とミュージアムをつなぐ中間支援が根づき、すべての人がミュージアムという場を起点に豊かに生きる社会があります。そのために必要なのは、まず一つの事実をつくること。本シンポジウムで交わされた言葉と実践が、その一歩となることを願います。
「みんなでミュージアム シンポジウム2025〜つながりをつくる中間支援──ひと・地域・ミュージアムをむすぶ"あいだ"の力〜」
- 日時
- 2026年2月15日(日)14:00〜17:00(途中休憩あり)
- 会場
- オンライン(Zoom)
- 登壇
- 鈴木智香子(独立行政法人国立美術館 国立アートリサーチセンター研究員)、大政愛(はじまりの美術館 学芸員/福島県障害者芸術文化活動支援センター)、樋口龍二(九州障害者アートサポートセンター長/FACT〈福岡県障がい者文化芸術活動支援センター〉代表理事/NPO法人まる代表理事)、柴崎由美子(NPO法人エイブル・アート・ジャパン代表)
- 司会
- 松島宏佑(みんなでミュージアム プロジェクトメンバー)
- 情報保障
- 手話通訳(高橋なつ子、長松郁弥、山田泰伸)、文字通訳(チームウエスト研修センター)
- 主催
- 文化庁、特定非営利活動法人エイブル・アート・ジャパン
- 事業
- 文化庁委託事業「令和7年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
テキスト執筆:鹿島萌子(みんなでミュージアム事務局)